毒香と呼ばれて道具を取り上げられた調香師ですが、嗅ぎ紙を引きつづけたら、裁定官が昼の鐘のあとに必ずこの角を曲がってきます(Realize出版) [電子書籍]
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毒香と呼ばれて道具を取り上げられた調香師ですが、嗅ぎ紙を引きつづけたら、裁定官が昼の鐘のあとに必ずこの角を曲がってきます(Realize出版) [電子書籍]

価格:¥913(税込)
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出版社:Realize出版
公開日時:2026年08月19日00:00:00からお読みいただけます。
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毒香と呼ばれて道具を取り上げられた調香師ですが、嗅ぎ紙を引きつづけたら、裁定官が昼の鐘のあとに必ずこの角を曲がってきます(Realize出版) の 商品概要

  • 砂の上に立たされてから、千種蓮は自分の指の匂いを二度嗅いだ。前日の闘技で闘士が三合目に自分の腕を掻きむしって錯乱し、その日の香の検分役だった千種が、香で妨害したとして裁定台の下に立っている。
    千種蓮、二十七。十七の年から久留島辰実に弟子入りして十年、街の東の外れで工房を継いでいる。話す言葉は山向こうの訛りで、裁定の場では通詞を挟まないと通らない。うちの封蝋は松の脂を入れるからざらつく、この瓶は照っている──そう答えたのに、記録には「異なると述べています」の一行しか残らなかった。
    裁定官の鴇田迅、三十六。証拠の瓶を握り布ごと持ち上げ、鼻の下で型どおりに二度往復させて、前例のない保留を告げる。千種は裁定所に留め置かれ、十二日目に乳鉢も精油も嗅ぎ紙も取り上げられる。口から入るものは香と同じ扱いだから、抑えの薬も取り寄せられない。
    紙が一枚だけある。千種は人差し指と中指と薬指の脂で、頂香・体香・留め香の三本をその紙に引き、こすった長さで割りまで示して、自分の調合をその場で作り直してみせる。鴇田はそれを光に透かして、嗅がずに持っていった。
    この人の裁定は、嗅覚の欄が五年ぶん空白である。袖の内側に強い頂香を三日染ませて廊下ですれ違っても、二歩の距離で素通りされる。それでも足音は、昼の鐘のあとに必ず十一本目の柱の角を通ってくる。留め置きの十二日、その足音は三度、扉の前で止まって鍵を回さずに帰った。
    釈放されたのは三十五日目。街の石畳と井戸の縁と木の幹に、二文字が書かれていた。木のは彫ってあった。断りの文が十一通。婚礼も湯屋も織屋も引いた。疑っていない者が、それでも引いた。
    数字で言えないなら、順序で言えばいい。同じ香を半刻ごとに六枚の紙へ落として同刻で封じると、輪の外側の白さと縁の段で抜けた順序が目に見える。獣の脂は四枚目で必ず泣く。木の脂は泣かない。十二回やって十二回同じ。
    工房の棚には硝子の瓶が七十ほど並んでいる。上の段が頂香、中が体香、下が留め香で、段の中は左から右へ抜けの速い順に置いてある。十年、毎朝いちばん最初にその三段をなぞってきたから、指の脂は三本とも別の匂いを覚えている。
    貼られた一語を、誰かに剥がしてもらう話ではない。晩冬から晩秋まで、七月と六日と、それから一月。オメガバースBL・全10章完結。

毒香と呼ばれて道具を取り上げられた調香師ですが、嗅ぎ紙を引きつづけたら、裁定官が昼の鐘のあとに必ずこの角を曲がってきます(Realize出版) の商品スペック

出版社名 Realize出版
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著者名 雪村すばる
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