枡の筋が読めなくなった灯明屋ですが、四つの段と落ちる音で量りつづけたら、継ぐ気のない甥が毎晩一合ずつ買いに来てくれます(Realize出版) [電子書籍]
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枡の筋が読めなくなった灯明屋ですが、四つの段と落ちる音で量りつづけたら、継ぐ気のない甥が毎晩一合ずつ買いに来てくれます(Realize出版) [電子書籍]

価格:¥913(税込)
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出版社:Realize出版
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枡の筋が読めなくなった灯明屋ですが、四つの段と落ちる音で量りつづけたら、継ぐ気のない甥が毎晩一合ずつ買いに来てくれます(Realize出版) の 商品概要

  • 「多かないですか?」--五勺と言われて量った枡に、七勺以上入っている。一合枡の内側には四つの角があって、その稜線に二勺、四勺、六勺、八勺の高さで細い筋が入っている。四十六年、その筋を見て量ってきた。
    蓑島喜六、六十三。十七でこの灯明屋に入って四十六年、菜種の油を日に四升七合、魚油を二升ほど、十文から五十文までの細かい単位で四十人五十人に分けて売ってきた。三年前の秋に細かい字が読めなくなり、去年の暮れに一町先の看板が読めなくなった。枡の筋が見えなくなったのは、それより後だ。女中のかねが、枡の四つの角に爪の落ちる段を彫った。彫るのは稜線であって面ではないから、中に入る油の高さは変わらない、と言って。一合には段がない。一合は、四十六年ぶん、油の落ちる音で覚えているところだ。
    甥の佐吉、二十七。駕籠かきを七年やって、まだ棒しか持たせてもらえない。二十でこの町へ戻って、四日目に店へ入って一合買った。名乗らなかった。名乗ったのはその半年あとで、半年ぶん、佐吉は毎晩一合ずつ買いに行った。百八十合、九貫ぶんだ。名乗った日に喜六が何と言ったかは覚えていない。覚えていないというより、喜六が最後まで言わなかった。油屋は継がねえ、とだけ佐吉は言い切っている。
    その夏、町でこの店の菜種は薄いと言われはじめる。三日で客が八人減り、売り上げが七百文落ちた。油仲間の顔役は、菜種の小売を四十文にしろと言ってくる。仕入れが一合三十二文だから、四十文で売れば八文しか残らない。秋には、樽の木の目を指で読み違えて、菜種の壺へ魚油を三升入れてしまう。四升のうち三升が魚油。仕入れで七百四十文。喜六はそれを売らずに甕へ移させ、蓋に「売らず」と貼らせる。菜種でも魚油でもない、名のないものに値はつけられん、と。冬には、橋詰と堤の上の常夜灯が二基だけ消える。町の灯十二基への納めは、この店の商いの二割にあたる。
    量り場の隅の柱には、横向きの刻みが四つ入っている。いちばん上は地面から二尺五寸ほど。脇の薄い墨は、未の年の三月十八日と読める。蔵の左の棚のいちばん奥には、空の一斗樽が二十四年置いてある。年に一度だけ、かねが外へ出して日に当てている。
    毎晩一本ずつ日付を書いて包んだ試しの芯が、百七十八本。店先の柱には四行を掲げ、一合で朝まで保たなかった晩の代はいただかない、と書く。仕入れは値を下げてもらうのではなく、四百文上げてもらう。--六月から翌年の三月十八日まで、この店で数える者が一人から三人になる十か月。時代ライト文芸・全10章完結。

枡の筋が読めなくなった灯明屋ですが、四つの段と落ちる音で量りつづけたら、継ぐ気のない甥が毎晩一合ずつ買いに来てくれます(Realize出版) の商品スペック

出版社名 Realize出版
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著者名 望月とまり
著述名 著者

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