毒を盛ったと名指しされた渡り医者ですが、脈帳を縦に読み直したら、村の産婆が写しを抱えて来るたび上がりこんでしまわれます(Realize出版) [電子書籍]
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毒を盛ったと名指しされた渡り医者ですが、脈帳を縦に読み直したら、村の産婆が写しを抱えて来るたび上がりこんでしまわれます(Realize出版) [電子書籍]

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毒を盛ったと名指しされた渡り医者ですが、脈帳を縦に読み直したら、村の産婆が写しを抱えて来るたび上がりこんでしまわれます(Realize出版) の 商品概要

  • 谷筋に四十二戸。この村に井戸は一つしかなく、朝と夕に百八十人がそこへ通う。五升の手桶で七十二杯、毎日三石六斗が、あの一つの穴から上がってくる。
    梶井宗庵、三十二。二十の年に師の家を出て、東海道の宿場を振り出しに十二年、村々を回ってきた渡り医者である。脈帳が十八冊ある。誰の脈をいつ取ったか、一息にいくつ打ったか、舌の色と、本人が言ったことを五字か六字で。自分にしか読めない崩し字で書き、毒になりうる薬にだけ丸をつける。日で読み、名で読まない。同じ土地に留まらない医者が荷を軽くするための決め方で、十二年そうしてきた。
    四月十八日の未明、庄屋の作兵衛が死んだ。前の晩に附子を一分入れた煎じ薬を煎じて、枕もとまで運んだのは宗庵である。一分は米粒を七つ八つ並べたほどしかない。年寄役の越智半右衛門は残りの入った椀を預かり、それを辻の榎の下へ持ち出して、三十人の前で宗庵の名を出した。御代官所へ届けが出る。黒白が付くのは早くて三月、長ければ半年。そのあいだ村においでいただくのがよろしい、と言われた。
    その晩、宗庵は去年の秋の冊を繰った。作兵衛の名が十月から急に増えている。十月に三度、十一月に四度、十二月に五度。訴えの欄はどれも同じ六字だった。水のむとくだる。十八度、同じ六字を書いたのは宗庵の手であって、宗庵はその十八度を一度も並べて読んでいない。
    そして産婆の志水ふさ、二十九。十八の年から十一年で百三人を取り上げた女で、返事を待たずに草履を脱いで上がってくる。夜どおしで脈帳を村の者に読める大きい字へ写し、井戸端で日付と六字だけを抑揚をつけずに読み上げる。写しには宗庵の名を書かない。名が入っていたら村の者は中身を読まずに名を読むからだという。取り上げの仕事を人質に取られても、束を抱えて上の家の玄関へ通い、受け取られなかった紙の上へまた一枚置いてくる。回るうちに束は厚みが倍になり、増えた半分は村の者が裏へ書き足した字になった。
    人足頭の削った板の束。薬売りの荷の覚えにある五百匁。寺男が四十年つけてきた帳には、この二年で掘った穴が二十三ある。並みの年なら五人だという。名の下に丸をつけてきた男が、自分の身の証より先に、いま倒れている者へ間に合わせるまでの、四月の未明から十月の二十日まで。時代小説・全10章完結。

毒を盛ったと名指しされた渡り医者ですが、脈帳を縦に読み直したら、村の産婆が写しを抱えて来るたび上がりこんでしまわれます(Realize出版) の商品スペック

出版社名 Realize出版
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著者名 来栖かがり
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