甕を潰したと読み上げられた型付けですが、夜に型を彫りつづけたら、同じ日に入った男が六十晩つづけて当番表を照らしてくれます(Realize出版) [電子書籍]
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甕を潰したと読み上げられた型付けですが、夜に型を彫りつづけたら、同じ日に入った男が六十晩つづけて当番表を照らしてくれます(Realize出版) [電子書籍]

価格:¥913(税込)
ゴールドポイント:183 ゴールドポイント(20%還元)(¥183相当)
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出版社:Realize出版
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甕を潰したと読み上げられた型付けですが、夜に型を彫りつづけたら、同じ日に入った男が六十晩つづけて当番表を照らしてくれます(Realize出版) の 商品概要

  • 三隅屋の板場の土間に、藍甕が六本、地面に埋めて据えてある。北の端から一番、南の壁のところが六番。北が有働きよの持ち場で、南が厚東栄介の持ち場だ。南は朝から昼にかけて光が入る。型の目を見るには南がいい。それを十二年、栄介が使っている。
    有働きよ、二十六。十四の年に三隅屋へ入って十二年、糊を置いてきた。夜の釜番では九つ、九つ半、八つに、柄杓で四杯ずつ灰汁を差す。合わせて十二杯。手が覚えていても口の中で数える。言わないと手が飛ばす。型は買わずに自分で彫る。一枚に十日かけ、途中で何度も止めて灯りに透かす。透かすと錐目の乱れが見える。
    三月十二日の朝、三番の甕が潰れた。藍の花は灰色に沈み、柄杓で上げた液は泥の水を薄めたような濁りだった。大和屋へ納める二十反が駄目になった。主の三隅卯兵衛は当番表を持ち出して、十一日、釜番、有働きよ、と読み上げ、それからお前だと言った。甕に何を入れたと訊かれて、入れておりませんと答えた。その日から、きよの名は板場の割り紙から消えて、干し場の見回りの欄だけになる。
    三隅屋の当番表には裏がある。左の列がきよ、右の列が栄介。代わってもらった晩に一本ずつ棒を引く。十二年前の冬から続けてきたもので、左に三十九本、右に三十七本ある。その右の列に、どちらも引いた覚えのない三十八本目が引かれていた。きよの棒は当て木を当てるから真っすぐで、栄介の棒は撓む。三十八本目は撓んでいた。
    潰れた反物の切れ端に残った菊の花芯は、七つとも同じ大きさで抜けていた。きよは真ん中だけ半分の大きさにする。六年前、裂いた型の代わりに師の型を差し出されて、きよはそれを受け取り、帰り道の橋から川へ落とした。他人の彫った型は使わないと、その日に自分へ課した。誰にも言っていない。言っていないから、いま証しにならない。
    藍師の佐平次は濁りを見て、毒ではなく灰汁だと言った。三番は二月の末に建て直したばかりで、三月なら灰汁は二日に一度。十一日は差す日だ。それなのに当番表の灰汁合わせの欄だけが空いている。下男の文太は、その晩すれ違った者が桶を左の肩に担いで軒に当てたと言う。三隅屋の者は必ず右で担ぐ。隣の紺屋の隠居は、九つ過ぎに裏木戸から灯りが一つ出て、四半刻で白い丸めた紙を抱えて戻ったと言う。
    そして厚東栄介。きよと同じ日にこの店へ入った男で、思いついた端から声にして体が先に動く。梁から十二年ぶんの当番表を下ろし、四千三百二十日を一日ずつ、表と裏で照らしはじめる。六十晩かけて全部を照らし、合わないのは三月十一日の一日だけだと突き止める。棒を数え直すと、きよは一晩に一本、栄介は一遍に一本引いていた。きよが代わりに立った夜は四十七晩、栄介が立った夜は三十九晩。八晩を帳消しにしようと言う男に、きよは、しないと答える。
    誰があの晩の板場にいたのかは、最後まで分からない。分からないままにしておくと決めた二人が、十二年ぶんの一枚を真ん中で裂いて半分ずつ持つ。九月十四日から、板場の南側は有働きよの持ち場になる。干し場には、一遍だけ浸けて上げた薄い青が上がっている。時代小説・全10章完結。

甕を潰したと読み上げられた型付けですが、夜に型を彫りつづけたら、同じ日に入った男が六十晩つづけて当番表を照らしてくれます(Realize出版) の商品スペック

出版社名 Realize出版
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著者名 来栖かがり
著述名 著者

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