贋物の猿を彫ったと名を出された下働きですが、たがねの摩耗痕を数えたら、親方が二十日毎朝、目録に名を書き足してくださいます(Realize出版) [電子書籍]
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贋物の猿を彫ったと名を出された下働きですが、たがねの摩耗痕を数えたら、親方が二十日毎朝、目録に名を書き足してくださいます(Realize出版) [電子書籍]

価格:¥913(税込)
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出版社:Realize出版
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贋物の猿を彫ったと名を出された下働きですが、たがねの摩耗痕を数えたら、親方が二十日毎朝、目録に名を書き足してくださいます(Realize出版) の 商品概要

  • 西横町の細工場は三畳半しかない。東の窓の下が親方の座で、そこから二畳ばかり離れた壁際が下働きの座である。
    久我こま、二十六。十四の年にこの家へ入って十二年、下地の仕上げだけをしてきた。鋳肌を落として面を平らにし、角を立てるところは立て、丸めるところは丸める。紐通しの穴は麻紐と砥石の粉で通す。仕上げた下地の上に親方の毛彫りが乗り、親方の銘が入って、品は外へ出ていく。目録の一行には日付と型と地金と渡した先しか書かない。作った手を書く欄は、はじめから無い。
    秋の朝、仲買の都筑屋嘉平が桐の浅い箱を提げて上がり框に腰を下ろした。中には一柳の銘の入った猿の根付が九つ。この二年で市中へ出た一柳の猿が八十六、一柳の細工場が出したのは年に十七の二年ぶんで三十四、残る五十二を彫った手がこの家にある、と嘉平は言う。一柳の毛彫りは線の入りが浅い。この九つは入りから深い。鏨を立てて打つ手つきで、これは久我こまの線でございます、と。翌る朝には、向かいの桶屋の前に人が三人立っていた。
    こまの鏨は毎日使う。四十日にいっぺん東の裏通りの研ぎ屋へ預けて、一度研ぐと半厘減る。三寸で始まって、いま二寸四分六厘。研ぎ屋の暗い箱には、預かりの札が百八枚たまっていた。一枚に日付と丈が書いてある。こまの刃は片側が落ちているので、彫った線の底の片側にだけ影が寄る。九つの猿は、どれも底が丸かった。
    こまは数を並べた。三つ彫れば底が起きる刃で八十六を彫るには、二十九度研ぎに出さなければならない。二年で来たのは十八度、丈の減りは九厘。砥石屋の控えには、仲買が二年で仕上げの硬い砥石を十一挺。地金屋の控えには、南の橋の手前の別の看板の名で十度、四百三十匁。用向きの欄は十一字。北の高台の隠居の座敷には、一柳の品が三十一点並んでいた。
    そして東の窓の下の一柳宗玄、四十三。二十七年銘を切ってきて、人の返事を急かさない。鏨を置くときは必ず刃を自分の側へ向けて置く。この人は間違いを陰で直さない。人の前で言い直して、それから二十日、毎朝おなじ刻限に目録の前へ座り、二十七年ぶんの行の下へ細い字で一行ずつ書き足していく。下地 久我こま 面・角・穴。
    九つの猿が框に並んだ秋の朝から、自分で彫った貝を一枚磨きあげる春の午後まで。時代小説・全10章完結。

贋物の猿を彫ったと名を出された下働きですが、たがねの摩耗痕を数えたら、親方が二十日毎朝、目録に名を書き足してくださいます(Realize出版) の商品スペック

出版社名 Realize出版
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著者名 来栖かがり
著述名 著者

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